ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ

ある食事の風景です。
しかし、
じっくりと見てみると奇妙です。

画面手前の足を延ばした男性と
犬を撫でている女性は
テーブルからはずれて座っています。

そして、
その女性に食事を渡す男性?

これは一体何を表しているのでしょう?

この絵のタイトルは
「ロレンツォとイザベラ」

この絵を見ると2人は解ります。
女性がイザベラ
そして食事を渡す
男性がロレンツォです。
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ
では、
足を延ばした男性は一体誰?

 

 

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絵の題材

 

この絵の題材は、
イギリス・ロマン主義の詩人。
ジョン・キーツ(1795-1821)
が書いた詩
「イザベラとバジルの鉢」
がもとになっています。

その内容は、

シシリー島に住む裕福な家庭の娘
イザベラは
使用人ロレンツォと恋に落ちますが、
イザベラの2人の兄たちは
イザベラを資産家と
結婚させようとしていました。

しかし、
イザベラとロレンツォの関係を
知った2人の兄たちは
ロレンツォを密かに殺害し、
死体を森に埋めてしまいました。

それを知ったイザベラは
ロレンツォの亡骸から首を斬り落とし、
自分の部屋に持ち帰って
バジルの鉢に植えて、
バジルの種を蒔きました。

バジルはよく育ちましたが、
それを知った兄たちが
鉢を割ってしまうのです。

イザベラは悲しみのあまり、
発狂して死んでしまいました。

 

 

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絵の内容

 

もし、
あなたなら
この題材をどう描きます?

大抵の画家は、
こう描きました。

イザベラとメボウキの鉢

ロレンツォの首を植えたバジルの鉢を
大事に抱きかかえているイザベラの絵です。

いかにも
「イザベラとバジルの鉢」にふさわしい絵です。

ところが、
この絵は違います。
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ
あまりにも題材から
かけ離れたように見えます。

しかし、
この絵をよく見ると
本当に恐ろしいことが
解ってくるのです。

この絵を描いたのは

ジョン・エヴァレット・ミレイ
イングランドの
ロイヤル・アカデミーで活躍し
晩年には、
ロイヤル・アカデミーの
会長も務めた画家です。

そんな彼が描(えが)いたこの絵は
当時のロイヤル・アカデミーを批判し
ラファエル前派として描いた
はじめての作品だったのです。

どういうことでしょう?

この当時は一般的に、
イタリア・ルネサンスの
巨匠ラファエロが
史上最高の画家とされていました。
そして当然ロイヤル・アカデミーでも、
ラファエロみたいな絵を
描かされていたことでしょう。

これに不満を抱いた
若き三人の画家がいました。
21歳のウィリアム・ホルマン・ハント
20歳のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
19歳のジョン・エヴァレット・ミレイ

彼らは、
ラファエロ以前の初期ルネサンス芸術を
蘇らせるために秘密の組織
ラファエル前派兄弟団(PRB)」を結成しました。

この絵のイサベラが座る椅子の足元には、
ラファエル前派兄弟団
秘密のイニシャル「PRB」が記されています。
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ
これは、
反アカデミズムを宣言した印なのです。

ラファエル前派は、
宗教的題材あるいは文学性の濃い作品を
細密な描写で描(えが)くことです。

この絵を宗教的題材で見て浮かぶのは
“最後の晩餐”です。
食事をしている人々は、
まるで初期ルネサンスの肖像画です。
すべて横顔。

しかし、
一人だけ正面顔です。
ロレンツォです。
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ
でも、
ロレンツォはどこか遠くを眺め
イザベラは隣にいる
ロレンツォには気にかけていません。

たぶん実際にはこの食卓に
ロレンツォは存在していないのでしょう。

これは、
二人の恋はかなわないことを
意味していると察します。

そして
ロレンツォがイサベラに
差し出しているのは
ブラッドオレンジです。

ブラッドオレンジは
赤い果汁が出るので、
まさに
ロレンツォの死をあらわしています。

そして、
気になるこの男
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ

クルミの殻を割り食べていますが
その目は怒りにみちています。

彼の目線をおってみましょう。
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ
目線の先には
イサベラに体を寄せている犬です。

彼は、クルミを食べながら
その犬を蹴っています。

そう、彼はイサベラの兄です。

そして、犬は
彼から見たロレンツォなのです。

延ばした足の指先は
刃物のようにも見えます。

これは、
犬(ロレンツォ)を蹴る(殺す)と捉えます。

イザベラの兄の椅子の下には、
殺された犬(ロレンツォ)の死体があるのです。
ロレンツォとイザベラ_ジョン・ミレイ

そして
イザベラの手は犬の頭をおさえています。
つまり、
ロレンツォを離さない気持ちの表れなのでしょう。

これは、
ロレンツォの亡骸から首を斬り落とし、
自分の部屋に持ち帰って
バジルの鉢に植えることを意味します。

この犬の何ともいえぬ目は、
兄とイザベラの異常な行為に
巻き込まれる気持ちなのでしょうか。

見ている私も不安や恐怖を感じる目です。

 

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ミレイ鑑賞作品一覧

 

 

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