「イーゼンハィム祭壇画」の、
第1面
その中央に
今回の絵があります。
「キリストの磔刑」です。
聖書の内容は
こうなっています。
午前9時ごろ
ゴルゴダの丘に辿りついた
キリストは、裸にされ、
手足に杭を打ち込まれた。
そして二人の盗賊と共に
十字架にかけられた。
キリストの頭上には
「ユダヤ人の王イエス」
という罪状を記した札が掲げられた。
祭司や兵士、群衆は、
イエスに罵声を投げかけ
「お前が神の子なら、十字架から下りてみろ」
などと口々に罵った。異変が起きたのは昼頃だった。
突然太陽が光を失い、
あたりが暗闇に覆われたのだ。
その状態が3時間も続いた頃、
イエスは大声で
「我が神、我が神、
なぜ私をお見捨てになったのですか」
と絶叫して息絶えた。
そのとき地震が起こり、
神殿の垂れ幕が真ん中から
引き裂かれたという。
イエスの十字架も
多くの画家が描いています。
そのほとんどが
キリストが
十字架にかけられ
大衆が見ている絵です。
しかし、
グリューネヴァルト
は違います。
画面の右側には、
すでに亡くなっている
洗礼者ヨハネがいます。
ヨハネとキリストの
間にいる仔羊は、
十字架を背負い、
傷口から血を流しています。
これは
キリストと犠牲者の
存在を表しているのです。
キリストの足元で
のけぞっているのは
マグダラのマリア
その後ろで
失神しているのが
聖母マリアです。
そして、
最も凄いのが
キリストです。
体中に傷で覆われていて、
血が流れ出てます。
顔つきは苦痛にゆがんで
垂れ下がっていて
口が開いています。
キリストの
肉体的な苦しみを、
これほど
恐ろしく残酷に
描いたものは
この絵だけです。
何故、
こんなに
残酷に描かれたのでしょう。
それは、
この絵が展示されているのが
疫病病院
「聖アントニウス会修道院 付属施療院 礼拝堂」
だからです。
ヨーロッパでは、
ライ麦パンによる
麦角中毒が起きていて
聖アントニウス会の修道士が
麦角中毒の治療術に
優れていたそうです。
麦角中毒は
手足が燃えるような感覚を与え、
壊死したり、
精神異常、痙攣、
意識不明、流産などが起き
死に至ることもある
恐ろしい食中毒だったのです。
その
麦角中毒の苦痛を、
キリストの苦痛に見立てたのです。
麦角中毒患者は、
キリストが苦痛に耐える姿を見て
励まされたことでしょう。
グリューネヴァルトは、
「イーゼンハィム祭壇画」以外でも
「キリストの磔刑」を描いています。
最初に描いた作品は
3人のマリア、福音書記者聖ヨハネ、
聖ロンギヌスのいるキリストの磔刑
です。
ローマの百人隊の隊長である
ロンギヌスが
「この方はまことに神の子であった」
と叫んでいます。
その言葉は
ロンギヌスのそばに書かれています。
絵画にセリフを入れるのも、
画期的ですね。
次に最後に描かれたという
キリストの磔刑
キリストの体が大きく描かれ
画面を支配しています。
グリューネヴァルト鑑賞作品一覧